第四回ことのは文学賞レポ

こんにちわ。ことのはサークル員のTです。
幹事長から第四回合評会のレポートを書くよう言われたので、ごちゃごちゃ書かせて頂きます。
作品について色々つっこむので、やや内輪向けの内容になってるかもしれませんがご了承を。
全く関係ありませんが、次回読書会は9月12日に『観光』(ラッタウット・ラープチャルーンサップ著。ハヤカワepi文庫)でやります。一応Web上で告知。サークル部外者の参加大歓迎です。


読書会全体について
幹事長いわく「今回は低調だった」。僕もそう思います。
今回は提出作品が四作と、三回と較べて作品数がかなり少なかったことが、いまいち盛り上がりに欠ける議論になった主たる原因だと思いますが、ひとりひとりが「この作品を是非一位に!」と胸を張って推せる作品がなかったことも、原因のひとつではないかと幹事長は指摘しました。
その一方で、「メンバーが第一回とひとりも被っていないという事実が、ことのはという集団の歴史の歩みを感じさせる」という肯定的な意見も上がり、また、初参加者からも「皆が積極的に議論しており、各参加者の豊富な読書量をうかがわせる」という意見が出ました。

それでは、各作品についての議論レポに移ります。一応あらすじつけときます。参加してないサークル員はどれが誰の発言か推理してみてください。


「隣の女」…夜、「隣の女」のために病院に向かった「私」。静まり返った病院で「私」が見たもの。

夢の中の出来事のようだ、というのが全員共通の感想。夏目漱石の「夢十夜」や、河出書房の「奇想コレクション」シリーズのようなタッチを持っているという感想も出た。
「ホラーかと思ったら、オチがなくて肩透かしを食らった」
「漠然としたイメージだけで書いた感じ」
曖昧なイメージに基づいて書かれたような作品のためか、皆悪い印象は持たないものの、積極的に議論する端緒をつかめないようだった。
「読者を楽しませようという意志が感じられない。書くため(習作のため)に書かれたような作品」という意見に対しては、「そういう姿勢で書かれた作品を好む読者もいる」「おまえの好みじゃないだけだろう」という反論が出た。


「飛行機雲が青く炎上して」…中学生の日常と悪夢。

断片的記述が続くことから、「無意識」をテーマのひとつとしているのだろう、という意見が出た。舞城王太郎的だという指摘もあった。
「発想が安易で、ただグロかったな、という印象が残る」「漫画、アニメ的なイメージ。視覚的な面だけでなく、より高度なグロを描いてみては」という意見に対して、作者は「チープさを狙った側面もある」と返答した。「適当に書き散らしたとしか思えない」という意見も上がった。好意的と取れる発言もいくつか上がった。


「どこでも跳ねる」…施設に通う少年の日々の出来事。

個々のエピソード、全体に流れる雰囲気ともに優れているという意見が多かった。作者は、ダイベック『シカゴ育ち』やラープチャルーンサップ『観光』などの作品からストーリーの語り方を学ぼうとしたと語った。
後半、時間が一気に飛ぶ場面については、「もったいない気がする」という声もあった。
「時系列どおりに話を進める必要はない。意図的に時間を乱しても良いのでは」という意見に対しては、「むしろこういう作品については時系列を順番に書いていく方が効果が高いのではないか。時系列を乱すというのは映画的な作品のやりかたで、この作品は音楽的だと思う」という反論があった。
子供の描写が賞賛される一方で、老人のキャラクター造形は「よくわからない人物」という指摘があった。これについて作者は「子どもが感じる「老人」の不可解さというものは、そのまま、自らが体験できない「歴史」に対して抱く不思議さでもあるのでは」といった主旨のコメントをした。


「夜が降りてくる」…高校生の啓太が夜道で出会った少女の正体は……

作者は「タイトルありき」で書いたと説明。
「台詞が説明的」、「展開がベタ」という意見が上がった。
「もしこの作品がラノベなのだとしたら、もっと主人公を感情移入できるキャラクターとして書く必要がある」
「ラノべのワンシーンを切り取ったような感じ」
ラノベにしてはシンプル。ここからどういう風に話を展開させるのか気になる」
などの意見が上がった。
展開はラノベ的だが、ラノベ的でない要素もある作品なので、ラノベの技術についてや、美少女の書き方についてなど、様々な方向に話が飛んだ。


という感じの合評会でした。第三回ほどの盛り上がりはありませんでしたが、今回もこれまでのことのは文学賞にはない作品が出てきたので、収穫がなかったわけではないな、と思います。もちろん、この文章に書ききれていないことがたくさんあるので、今回参加できなかった方も是非次回は参加してください。